六義園の詞林松

10 詞林松 (しりんせう)

あつめ置(おく)詞(ことば)のはやし散(ちり)もせで
千年(ちとせ)かはらじ和歌のうら松

『古今』真名序に、「夫(それ)和歌者(は)、託其根於心地、発其花於詞林」共(とも)いへり。
彼(かの)『千載集』の序に、「心の泉」に対せし詞なれば、その余情(よせい)もあればなるべし。
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詞林松(10.しりんせう)は、六義園八十八境の一つ。文保二年(1318)、大覚寺統の後宇多院が二条為世に勅撰集の勅撰を命じ、文保百首を召した際、自らも詠んだ百首歌の一が元歌で、
『続千載和歌集』(勅撰15番目)に採られた歌より境の名がつけられています。

『続千載和歌集』二一三〇、百首歌めされし次に、法皇御製、
あつめおくことばのはやしちりもせでちとせかはらじわかの浦松

◇訳:集め置く歌々――この詞の林は散り失せることなく、千年後も変わらぬ姿で伝わるであろう、和歌の浦の松林のように、尊い勅撰和歌集として。(ブログ:やまとうたより)
◇散りもせで:散り/名詞、も/係助詞、せ/動詞、で/接続助詞 → 散りもしないで。
・散り:名詞
・も:強意の係助詞 文節の区切り目で入れる。
・せ:文語サ行変格活用の動詞「す」の未然形 ・せ/し/す/する/すれせよ 意味:する。
・で:接続助詞 活用語の未然形につき打消しの意を表す ・・・ないで。
  (資料1:源氏物語イラスト訳で古文偏差値20UPする勉強法)
◇じ:打消推量の助動詞 ・・まい。・・・ないだろう。
◇わかの浦:「和歌の浦」は紀伊国の歌枕。勅撰集の「和歌」と掛詞。

◇『続千載和歌集』
『続千載和歌集』(しょくせんざいわかしゅう)は、大覚寺統の後宇多院(ごうだいん)の伏見院(持明院統)と京極為兼による『玉葉集』への対抗意識から編まれました。『玉葉集』成立からわずか六年後のことでした。伏見院や永福門院の入集歌は少なく、大覚寺統が皇位についたことで、ふたたび二条派が優位になり、平淡・温雅な二条家歌風の撰集となっています。
( 参照→7 風雅松 図:持明院統と大覚寺統及び南北朝の系図と勅撰集)
皇統が南北に分かれ、勅撰集も政治的な要因が絡んでくるが、『古今』真名序、『千載集』の序には、歌の本源が語られている。いつまでも変わらぬ姿(綱吉の御代、柳沢家と六義園)をこの歌に託して吉保は採りあげているのではないでしょうか。

『古今和歌集真名序』(こきん わかしゅう まなじょ)
『古今和歌集』(こきんわかしゅう、成立:延喜5年(905年)以後)は、平安時代前期に勅撰和歌集として最初に編纂された歌集で、二篇の序文すなわち、『仮名序』と『真名序』が添えられました。真名(漢文)で書かれた序文を単に『真名序』(まなじょ)といいますが、紀淑望が紀貫之から依頼を受けて執筆したとされています。
夫和歌者、託其根於心地、発其華於詞林者也。
それ和歌は、その根を心地に託(ことづ)け その花を詞林に発(あは)くものなり。
訳:そもそも和歌というものは、その根を心という大地に下ろし、その花を詞(ことば)という林(詩文を多く集めた書)に咲かせるものだ。

◇紀 淑望(きのよしもち、生年不詳 -919年)は、平安時代中期の貴族・儒者・歌人。中納言・紀長谷雄の長男。兄弟に淑人・淑光がいる。文章生・秀才・大学頭・信濃権介などを歴任。従五位上。勅撰歌人として、勅撰集入集歌は古今集・新古今集に各一首採録されています。
紅葉せぬときはの山は吹く風のおとにや秋を聞きわたるらむ(古今251  紀淑望)
【通釈】木々が紅葉しない常盤の山は、風の吹く音に秋の移ろいを聞き続けているのだろうか。(千人万首より)

◇『千載和歌集』序文からの抜粋
 「敷島の道もさかりにをこりて、言葉の泉いにしへよりも深く、言葉の林いにしへよりも繁し。」 (資料2)
・しきしま‐の‐みち【敷島の道】《日本古来の道の意から》和歌の道。歌道。
・ことば-の-いづみ【言葉の泉】『六義園記』4「心泉(こころのいずみ)」の項では、『心泉』と記載されている。
・ことば-の-はやし【言葉の林】同上、『詞林』と記載されている。
・『心泉』と『詞林』が対句になっている。

画像
 
図は、『楽只堂年録』元禄十五年(1702)十月二十一日の項の附図『六義園図』の一部です。この辺りにあった境の2.見山石 3.資源石 4.心泉 5.心橋 7.風雅松 8.心種松 9.古風松 10.詞林松 11.掛名松などはすでにありません。また、五代将軍の「御成」を願い建てたであろう六義館(むくさのたち)も今はなく、心泉亭が名残をとどめています。

資料
1:源氏物語イラスト訳で古文偏差値20UPする勉強法
http://ameblo.jp/aiaia18/entry-12140091294.html
2:『千載和歌集』新日本古典文学大系10 片野達郎・松野陽一 校注 岩波書店

掲載日:2015年(平成27年)6月22日(月)晴
加筆修正:2016年7月31日(日)晴